丹下会長と、旧731石井細菌部隊との関係を、なんとか引き出したい。そんなある日、ひさしぶりに会長のヒアリングに行く日になった。なぜか不機嫌な秘書の芳田嬢に案内され、羽木務は迷宮のような廊下を進んで行く。そこには、白髪片腕のミノタウロスと、白く妖しい女狐が。
かつて戦前戦中における満州の阿片人脈にも通じる
老いたゼネコン社長の自分史制作をサポートする
ことになったフリーライターの羽木務。
その会社は、小さな独裁国家のような息苦しさで、
本社社屋は「父親殺しの建築家」として、世間から葬り去られた鷲巣数光の設計による奇怪な迷宮であった。取材を進めるうちに羽木は、丹下建設の贈収賄疑惑にも巻き込まれることになる。
――人間にとって、建築とは何か。
主人公は、神と世界への疑惑を抱えた自称"グノーシス派"の建築家の作品に、奇妙に引き寄せられる。
創造とは、権力意志の変容としての"呪われた業"であり、すべての芸術は、悪しきデミウルゴスによる幻影、イリュージョンなのか。
「檻」であり、ミクロコスモスであり、自己探求と解放への装置でもある〈建築〉をめぐる純文学ミステリー。
過去の雑誌掲載作品『小説海越』(1998)に、一部手を入れて連載します。
(連載全17章/各章ごとに随時Up)
Grasshouse/ 草原克芳