今号の特集は、認知症問題を取り上げることにしました。
「認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて」、このスローガンは、今年一月二七日に国が打ち出した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」のサブタイトルです。
社会保障制度や社会福祉のさまざまな規制と抑制を行い、すべての国民に手の届かない社会保障や社会福祉を推進している国家です。聞こえの良いスローガンが、すべての国民に行き渡るとはとうてい思えません。
プランの最後に、「認知症高齢者にやさしい地域は、決して認知症の人だけにやさしい地域ではない。困っている人がいれば、その人の尊厳を尊重しつつ手助けをするというコミュニティーのつながりこそが、その基盤となるべきであり、認知症高齢者等にやさしい地域づくりを通じて地域を再生するという視点も重要である」と述べています。結局、新オレンジプランとは、自助・共助を軸に、自己責任や家族責任を前提にしたプランかとあきれかえります。
現実には、多くの医療や介護から高齢者は疎外され、受療権やその人らしく生きるための介護を受ける権利も放棄させられています。この政策対象は、あくまで市場化されつつある介護や医療の事業サービスを支払える人に限定され、生活基盤の保障を前提にしない政策だと指摘せざるをえません。
実際の現場では、制度改悪の中でも、人としての尊厳への向き合いを家族とともにとりくんでいます。今回の特集では、認知症人とその家族の実際のすがたを通して捉えていきたいと思います。(編集主幹 黒田孝彦)