ビルの廊下ではボルゾイ犬が走り、
重役は「喜作四世」の醜い赤ん坊の御守り役。
一方、社員達には、朝から社会奉仕として周辺地域の掃き掃除の義務。
この会社は、丹下ファミリーを王族とする奇妙な閉鎖空間であった。
かつて戦前戦中における満州の阿片人脈にも通じる
老いたゼネコン社長の自分史制作をサポートする
ことになったフリーライターの羽木務。
その会社は、小さな独裁国家のような息苦しさで、
本社社屋は「父親殺しの建築家」として、世間から葬り去られた鷲巣数光の設計による奇怪な迷宮であった。取材を進めるうちに羽木は、丹下建設の贈収賄疑惑にも巻き込まれることになる。
――人間にとって、建築とは何か。
主人公は、神と世界への疑惑を抱えた自称"グノーシス派"の建築家の作品に、奇妙に引き寄せられる。
創造とは、権力意志の変容としての"呪われた業"であり、すべての芸術は、悪しきデミウルゴスによる幻影、イリュージョンなのか。
「檻」であり、ミクロコスモスであり、自己探求と解放への装置でもある〈建築〉をめぐる純文学ミステリー。
過去の雑誌掲載作品『小説海越』(1998)に、一部手を入れて連載します。
(連載全17章/各章ごとに随時Up)
Grasshouse/ 草原克芳