日本興業山丸証券(株)の須田健太が昭和五十二年、証券業界に身を投じてから最も強い衝撃を受けたのが、「丸一証券自主廃業」である。平成九年十一月二十二日付、日経新聞朝刊には「丸一証券 自主廃業へ」という大見出しが一面に踊っていた。株式市場では丸一の経営危機が何度となく囁かれ、株価はもうすでに大きく叩かれていたが、丸一を潰してしまうことで世界の金融危機を引き起こす事態を避けるため、何らかの政府支援があり生き延びるのではないか、という須田の淡い期待は吹き飛んでしまった。それと「自主廃業」という、その当時は聞きなれない言葉を、とっさに正しく理解することができなかった。報道された時に須田の頭をよぎったのは、丸一証券の友人たちのことである。
自主廃業の直接的な原因、二六〇〇億円に及ぶ簿外の含み損だったが、これは六年前にドンの命令の下、組織的に画策された含み損の隠蔽工作が本質的な原因だった。この隠蔽工作は海外子会社を巻き込んで実施され、須田の親友であった丸一証券山村隆司が中心的な役割を演じることになる。フランクフルトで銀行免許を持つ現地法人の社長であった山村は、隠蔽工作と知らされていなかったが、その危惧を持ちながらそのプロジェクトを完成させてしまう。
この隠蔽工作から、丸一証券は自主廃業という崩壊への道を歩み始めるのであるが、須田と山村が親しく交際したドイツにおいても、ベルリンの壁が崩壊しており、やはり、東ドイツ政府の市民に対する情報隠蔽から引き起こされていた。二人はベルリンの壁崩壊を目のあたりにして、その原因を分かっていたにもかかわらず、丸一は消滅する。
隠蔽する組織は必ずや崩壊へ向かうのであった。
はじめに |
自主廃業 |
丸一株暴騰 |
売買手口と板情報 |
議論の始まり |
無意味な議論 |
監査役の機能 |
会社を残すために |
再建案 S-Z |
迷走取締役会の閉幕 |
最期の営業日 |
明けない夜明け |
社長独白と役員の怒り |
局長記者会見 |
廃業決議 |
社長の涙 |
社員たちの漂流 |
欧州の空間 |
外資提携 |
白馬の騎士 |
最後の社長誕生 |
Sプロジェクト |
秘密会議 |
ドンの正体 |
内務官僚の群れ |
粛々と引っ張れ |
飛ばしの宇宙遊泳 |
法人マンの地獄 |
沈みゆく船 |
簿外債務スキーム |
銀行現法 |
丸一バンク |
ユニバーサルバンク |
二人の頭取 |
サバイバルファンド |
ルクセンブルグ大公国 |
子会社の頭取 |
ドンとの密約 |
JOCHHEIM(ユーハイム) |
ドイツビールとワイン |
ズゥスファス(甘い樽) |
ザウナクラブ(SAUNA CLAB) |
フランクフルト空港 |
JAL407便 |
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軍艦マンション |
単身赴任 |
女性秘書 |
ガールフレンド |
ブンズ入札 |
アービトレージ |
月次黒字化 |
口頭指導 |
最後の賭け |
全面撤退 |
壁の破片 |
壁崩壊 |
ピクニック事件 |
見切り千両 |
奥付 |
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