世間の人はわたしのことを「平蜘蛛」などと申します。わたしを織田信長様がえらく欲しがり、主人の松永久秀様が何度目かの謀反?をされたとき、わたしを差し出せばお城と首、つまり、命と領土を安堵すると、言ったとか言わなかったとか。
わたしにしても茶の湯の世界では大名物などと囃されても、たかが茶釜ですから信長様のところへ行ってもいいと、耳打ちしたのですが、久秀様はよほど癇に触ったらしく、
「もう、生き飽きた。信長ごとき小童(わっぱ)に、お前を渡すほど耄碌しておらぬわ」と、かかと笑われたのでした。
そして、わたしを小脇に抱え紅蓮の炎のなかに入られたのでした。久秀様が身罷ったかどうか、吹き飛ばされたわたしには判りません。何しろ奇妙な術など遣われるご兄弟だったですからねえ・・・。
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