鳥羽秦左衛門の楽しみの一つに、野良猫の餌やりがある。餌は河口で秦左衛門が小舟に乗り、打ち網に掛かる小鰺など雑魚であった。その日も煮干しした雑魚を持ち、松原に集まってきた野良猫に餌やりをし、そのあと砂浜に出て素振りを五百回と、足腰が衰えぬためにと四半刻ほど走り込んできた。
屋敷に帰った秦左衛門を待ち受けていたのは、倅圭之介が殺害されたという知らせだった。圭之介は阿州藩御小姓頭三百石取りで、秦左衛門が隠居するまで勤めていた役職である。藩政改革に巻き込まれた模様で、見るも無惨な惨殺遺体であった。探索するうちに下手人が判明した。圭之介は七人の改革派に暗殺されたのである。その背後に執政七人の影が明らかとなる。彼らは藩政改革の最後の手段として、藩主帰国の日を狙っていた。
一、二 |
三、四 |
五 |
六 |
七 |
八 |
奥付 |
奥付 |