女性の生き様を詠った句で評価を得ている歌人・へそまげ福子の句を春夏秋冬の季節ごとのチャプターに10句ずつ厳選して収録しています。
へそまげの春 |
春霞 鉄路の果ての 菜の花や |
茫漠と 鉛抱えて 花見かなや |
茉莉花(じゃすみん)に 遠い汽笛と 通り声 |
惜しんでも 行く春のあり 去る人のあり |
春の日に 猫かぶりかぶり 初出勤 |
寄せ書きは ごみに出したり ホーホケキョ |
花なれど 咲くほど寂し ユキノシタ |
日に何度 砂ぼこり舞う 胸の内 |
へそまげの夏 |
蝸牛(かたつむり) 来し方(こしかた)の迷い 歴然と |
胸底の 溜まり水増え 梅雨明ける |
梅雨寒し 思わぬ人と 夢で逢い |
紫陽花の 去年(こぞ)より深き 色出でて |
蚊帳(かや)の季に 入れず過ごした 幾夜かな |
蝉なれば 失言もなし 蝉しぐれ |
こうなれば ビールは薬と 思うべし |
ダム出来て 山肌痛し 炎暑かな |
人のこと つべこべ言うな 夾竹桃(キョウチクトウ) |
へそまげの秋 |
赤まんま 幼き我が 手をつなぐ |
片恋や 銀杏並木の 褪せぬうち |
芒の穂 色なき風を 誘い出す |
自堕落に 生きてみたやと ほととぎす |
秋の風 電話の向こうの 居留守かな |
馬車道を 路線バス行く ずくし柿 |
まだ紅き 芒の穂にも 秋の風 |
掻き合わせ 掻き合わせして 秋日傘 |
憂きことは 秋空いっぱい ふくらんで |
いわし雲 まだ大丈夫かと 我に問う |
天高く ストレスに痩せ ストレスに太り |
経歴も 家族も嘘の 秋の宴(えん) |
へそまげの冬 |
木枯らしに 恨みつらみが 息をする |
虎落笛(もがりぶえ) 想い届かぬ ことに慣れ |
タイラギの 腸(わた)を肴(さかな)に クリスマス |
石蕗(つわぶき)の 黄(き)寒空に 色を投げ |
幸せを したため年賀の 嘘八百 |
もう君を 想わずに行く 夕時雨 |
雄々しくて あんたに見える 冬木立 |
ああしても こう動いても 蟻地獄 |
あれこれと 目を瞑りおり 生きる術(すべ) |
雨は雪に 気がかりは不安に 色がつく |
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