本書は、著者が、世界が大きく変動しつつある20世紀末から今世紀の初頭にかけて出席した国際会議や海外の大学での講義とそれに伴う調査旅行を通して諸地域の経済と人々の生活について考察した貴重な「歴史の証言」である。すなわち、ソ連末期のレニングラード、最も平和であったといわれるイスラエル、人種差別問題とヨハネスブルク(南アフリカ)、南北朝鮮交流のスタート、オリンピック直前のトリノとイタリア、それに、EU問題と絡めてドイツやスウェーデン、ノルウェーなどヨーロッパの諸都市の盛衰についても論じられている。(さらに、キューバとメキシコ、ウエールズ、フランス農村、タスマニヤなどについての短文も載せられている。)変貌する世界の姿が読みやすい平易な文章で纏めており、新しい視点からの世界を理解する好著である。なお、補遺として、著者の人生の原点と若者の旅立ちのためのメッセージが加えられており、若い学徒だけでなく教育や研究に携わる人には大いに参考になろう。