太宰治(一九〇九─四八)は、日本近代文学において、最も評価のわれる作家の一人である。あるものにとっては自らの代弁者であるが、逆に、別のものにとってはただ嫌悪の対象でしかない。こういう見解の相違は優れた書き手にはよくあるけれども、太宰の場合、いささか奇妙な事態を引き起こしている。と言うのも、そういうタイプの書き手は、肯定的であれ否定的であれ、文学史に何らかの影響を与えるものであるが、一方、太宰は文学史に何ものかを後世に残しているとは見受けられないからである。
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