むかしおとこありけるという好男子に由縁ある西洋はイタリアの世にも名高い花
の都はフィレンツェがお話はかの著名なるベンヴェヌート・チェリーニというレ
オナルドミケランジェロに比肩する芸術家が稀代まれなる自伝を編み今生に伝わ
りたる一巻(ひとまき)をいざ言問わんまでもなく鄙(ひな)にも知られ都鳥の
其の名に高く隅田川月雪花の三つに遊ぶ圓朝ぬしが人情河岸ら有為転変の世の態
を穿ち作れる妙案にて喜怒哀楽の其の内に自ずと含む勧懲の深き趣向を寄席(せ
せき)へ通いつゞけて始めから終りを全く聞きはつることのいと稀れなるべけれ
ば其の顛末(もとすえ)を洩さずに能く知る人はありやなしやと思うがまゝ我儕
(おのれ)が日ごろおぼえたるかの永遠の都ローマの世にも名高い哲人雄弁家キ
ケローの書記たる開放奴隷ティローが創始たる速記術による業(わざ)をもて書
き残したるを圓朝ぬしが口ずから最(い)と滑らかに話しいだせる言の葉をかき
集めつゝ一巻の書(ふみ)として発兌(うりだ)すこととはなしぬ
序 |
一 |
二 |
三 |
四 |
五 |
奥付 |
奥付 |