私は若い時分にほんの僅かな期間だが、談合・調整に関わっていた事がある。それは私が属していた業界のみならず、官公庁の殆どの入札で行われていた。
民間とは違い、官公庁の受発注システムには、日本独特の仕組みがある。役所が事業を実施する場合は、まず前年度に、予算獲得のための大まかな計画を実施部署で練り上げる。これを基に、上層部や財政部署と交渉を行い、議会等の予算承認を得て新年度に発注となる。
事業の発注となれば、実施仕様書や金額設計書を細かく作成し、指名参加業者を選定の上、入札により実施業者を決める事になる。この流れ自体は明確であり問題は無い。だが、役所だけで全てが進められる訳ではない。作業仕様や設計書の作成では業者の技術や情報を参考にするし、予算獲得では議員の応援が必要不可欠になる。そこで事業の受注に関して、どこかの業者が優先権を主張する事になる。それは発注まで役所の仕事にどれだけ貢献したか、が基本にあるのだ。
役所の事業計画の時から、業者の営業が走り回り情報を得る。各社は細かい技術情報の提供や参考資料を提出する。出遅れた業者は、議員や役所のOBに応援を求める。こういう官公庁と業者の関係は、明治時代から延々と続いてきた商慣行ともいえるし、ある意味では合理的でもある。
善悪で言えば、もちろん不正行為なのだが「必要悪」の面も強い。この物語では、なぜ不正行為と分かっていながら、談合が全国的に蔓延するのか。を、業者側の業者調整に携わる人たちの、苦悩や打算を通して語りたかった。
物語の場所や内容は架空のものだが、似たような仕組みは全国的に散在するはずだ。だから、多くの人たちが新しいシステムを模索しているが、まだ出口は見えていない。