十年前に教え子を山で失った。控え目な笑顔が美しい子であった。遭難現場は北アルプスの奥穂高東壁、十一月初旬の事である。その年は例年になく冬の訪れが遅く、登攀を開始したのは秋晴れの紅葉が目に染みる早朝であった。軽やかなピッチで岩壁を攀じ、昼過ぎの小休止の後に東壁の中央ルンゼを登り始めた頃から初雪がチラチラ舞いだした。あたりが薄暗くなると同時に天候が急変し、やがてそれは本格的な吹き降りに変わっていった。リーダーは仲間に登攀中止を伝え、今度はうって変って困難な状況のもとでの下降が始まった…
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一 |
落石 |
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兎 |
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三 |
生 |
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手紙 |
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