砂浜で、女が男の生首を抱えて、熱烈なキスを繰り返していた。悲鳴を飲み込むと、心臓の鼓動が大きくなった。美しい女だ！！　「墓にゃ降ります涙の雨が！！」は、このような、ショッキングな幕開けで、はじまります。
　殺したいほど憎い男に、何故キスをしたか？　白昼、しかも海水浴場で、衆目の面前で、何故それほどの危険をおかしたのか？　僕は彼女を追って渚を走ります。「僕は見ていた！！」この女の弱みにつけこんだら、僕にも運が開けるかもしれません。こうして、男と女の愛憎の結婚生活がはじまります。愛しあいながら、寝首をかかれかねない不信のなかで、二人は追い詰められていきます。構成もミステリーとして、成功しているのではないでしょうか。表題はハムレットのオフィーリアのセリフ「‥‥お棺にのせて、運ばれた、ヘイノン、ノン二、ヘイノン二、墓にゃ降ります涙の雨が！！」から、とったものです。善良でありながら、巻き込まれていく若者の不幸を、作者は、乾いた感性で表現しています。また、文章がすばらしい！！　浜辺の描写など、何度も繰り返し読んでみました。これは、作者の高い文学性に裏打ちされたもの。魅惑的で、しかも、なんと哀しい作品なのでしょう！！