砂の川が流れる町で、「彼」は病床の恋人と暮らしている。
死者が砂となる町で、悲しみに泣く人もまたいつか砂と化してしまう地で。
「泣く人はかけがえのない何かを失った悲しみで泣き、それからかけがえのない何かが何であったのかを忘れてしまった悲しみで泣き、やがては自分がどうして泣いているのかさえも分からなくなった悲しみで泣くのだ」それは彼が小さい頃に生まれて初めて泣く人を見たときに隣にいた父親が、最後まで泣く人にはならず乾いた死を迎えた父親が語った言葉だった。そしてその言葉を思い出すたびに近頃は恋人の顔が彼の頭の中でちらつくのだった。(本文より)
著:スズキイッペイ 『季刊わせぶん冬号'10』収録。