福祉従事者であった著者・たくみ ふじが、自身の体験を基に綴った物語。児童養護施設、障がい者支援施設、そして大災害の現場という「境界線」の上で、著者が出会った人々の光と影の記憶が、四つの章で描かれる。
第一章では、児童養護施設を舞台に、不良の道へと進む少年を救えなかった無力感と、虐待の傷を乗り越えて笑顔を取り戻す少女の姿に見る再生の輝きなど、理想と現実の狭間で奮闘する日々を記録する。
第二章は1987年の韓国ソウルへ。児童福祉施設での交流を通して、日本の統治時代が人々に残した「恨(ハン)」という感情や歴史の罪に触れ、個人の運命が歴史にいかに翻弄されるかを目の当たりにする。
第三章では障がい者支援施設での経験が語られる。妄想に苦しむ女性、心を閉ざし声を失った青年、事故で重い障害を負った男性。一人ひとりと手探りで向き合い、時には寄り添い、時には一線を引く葛藤の中で、命の重さと支援の限界を知る。
最終章は1995年の阪神・淡路大震災の体験記。第二子の誕生と未曾有の災害が重なる極限状況下で、家族を案じながらも福祉従事者として安否確認や炊き出しに奔走する。瓦礫の街で被災者の悲痛な叫びを聞き、「記憶を語り継ぐ」という使命を見出すまでを描く。
本作は、福祉の現場における成功と失敗、喜びと悲しみをありのままに描き出し、人間の尊厳と希望とは何かを静かに、しかし力強く問いかける物語である。