戦後の焼け跡に立つ横浜の児童養護施設「みなと園」を舞台に、親を失った子どもたちと彼らを支えた大人たちの人生を描く感動作。物語は、混乱と貧困の中で孤児や混血児を受け入れた施設の創設者・シスター・マリアの献身から始まる。彼女と職員たちは、物資が乏しい中でも愛情と信仰をもって子どもたちに寄り添い、彼らが心の傷を抱えながらも「家族」と呼べる絆を築いていく姿が描かれる。
主人公の一人・カズオは、米兵の父と日本人の母の間に生まれ、母に捨てられた混血児。施設で仲間や職員と出会い、差別や孤独を乗り越えて成長していく。親友トシオとの友情や、シスター・マリアの無償の愛が彼の心の支えとなり、やがて自立したカズオは家庭を持ち、自らの過去を子どもに語り継ぐことで「生きる力」と「あきらめない心」を次世代へと手渡していく。
物語は昭和から平成、令和へと時代を追いながら、施設で育った子どもたちの人生を丁寧に描写。現代編では、新米職員・葵が心に傷を負った子どもたちと向き合い、先人たちの想いを受け継ぎながら「寄り添うこと」の意味を模索する。血縁を超えた絆、居場所の大切さ、そして人が人を支える力を静かに、力強く描いた本作は、戦争や差別といった逆境の中でも希望を見出す人間の姿を通して、読者の心に深く訴えかける。