さて、今回の『蟲（むし）』（江戸川乱歩著）という作品であるが、その内容は、次のようなものである。まず、主人公の柾木（まさき）愛造という人は、両親から幾何(いくばく)の財産を受け継いだ一人息子であり、当時二十七歳の私立大学を中途退学した独身の無職者であった。本来、非常に裕福であり自由な身の上でも遭(あ)ったが、柾木愛造は不幸にも、その境涯（きょうがい）を楽しむことが出来ぬ世にも稀(まれ)なる厭人(えんじん)病者であった。或る日、愛造の友人池内は、彼の家を訪ねて、女優木下芙蓉(ふよう)の話をする。僕は最近、木下芙蓉(ふよう)という女優と近づきになったが、その本名は木下文子(ふみこ)であり、ホラ、小学校時代僕等がよくいたずらをした、あの美しい優等生の女の子で、確か僕らより三年下で、愛造(あいぞう)の初恋の人でもあったということから展開する内容であり、興味や関心がありましたら、ぜひとも訪ねて見てください。（令和5年5月18日現在、配信して最新版）