架空の地域にある架空の高校の吹奏楽部で、上下関係と出身中学カーストを反映した不文律が融解し、新たなグルーヴの予兆が見えるまでを描いた話。
強豪でも弱小でもなく、支部大会金賞が目標になっている(毎年銀賞なので)黄泉高吹奏楽部に入部した丸子真人(ホルンパート、女子)は、集団の活動である音楽演奏のなかで「人に迷惑をかけない」という消極的な目的で奏法の改善に取り組んでいた。しかし中学時代の後輩からヒントを得て、担当しているのとは別の楽器(トランペット)を自宅で密かに練習しはじめ、吹きかたを研究しているうちに、練習のおもしろさに目覚めていく。結果的に高音域を広げるという懸念課題は克服され、丸子は、気がつくとパート内でいちばん上手い奏者になっていた。
それまで自分のことで精一杯だった丸子に、部全体の閉塞感への問題意識が芽生える。早朝の部室で、丸子は、仲のよいサックスパートの三年生、上川とともに幾体もの卒業生たちの生霊を見てしまう。それは高校時代の吹奏楽部生活への集団無意識的な遺恨のように思われた。四月、新入生が入部すると、丸子は部の不文律を明文化した非公式のルール集を作成、図らずも一年生の間で拡散していく。といっても、ルール集は無難にやり過ごすためのマニュアルにすぎず、何年も受け継がれてきた伝統の重石がかかる目に見えない圧力のなかで何ができるのかはまだわからない。
五月下旬、コンクールの演奏曲の選択をめぐり、「魅力的な曲」と「勝てる曲」との間で指導者・沢野と部長・永島の意見が対立するなか、黄泉市民吹奏楽団の音楽監督で作曲家の神野が来校。タクトを振らない、その奇怪な指導法は部活の風土までも変えていく。部員たちは活動の原点である音楽を意識しはじめ、自分たちの想像を超える集団に生まれ変わろうとしていた。
主な登場人物 |
第1部 |
序奏 |
第1章 アンブシュアの迷宮 |
第2章 で、実際アンブシュアどうするよ |
第3章 お客より出演者のほうが多い市民文化祭 |
第4章 中学の後輩は部活が楽しいらしい |
第5章 るんるんホルン |
第6章 そこそこ吹奏楽部の実態 |
第7章 空気にしか書かれていない部則がいろいろある |
第8章 早朝の部室に渦巻く想念 |
第9章 裏部則を明文化してみた |
第2部 |
第10章 楽器が吹けないと言って泣く新入部員 |
第11章 中間テストの最中に |
第12章 サウンドヒーリング |
第13章 自由曲どうするよ会議 |
第14章 解放 |
終章 未来図 |
あとがき |