さて、今回の「芥川龍之介の世界」完全版という作品は、芥川龍之介の世界(それは「羅生門」「杜子春」「蜘蛛の糸」「藪の中」四編)に「芥川龍之介の世界」(トロッコ)をつけ加えたものであり、その内容は、まず、「羅生門」では、このままでは飢えて死ぬか、凍えて死ぬしかないような状況に追い込まれた時、われわれ人間は、一体、どのような行動(言動)をするのかという「根本問題」を提示している作品であり、また、「杜子春」では、杜子春は、元は金持の息子でしたが、今は財産を使い尽して、無一文になり、門の壁に身をもたせて、ぼんやり空を眺めていると、そこに仙人が現われるという内容であり、人間の幸せとは、一体、どこにあるのかという問題提示であり、そして、「蜘蛛の糸」では、大泥棒の犍陀多(かんだた)は、たった一度だけ、善いことをしたことがあり、それは、林の中の路ばたを這って行く蜘蛛(クモ)を見た時、すぐにも踏み殺そうとしたが、いや、待て、小さくても生命(いのち)ある身、かわいそうだと思い直して、助けたことがあり、それを想い出したお釈迦様は、たった一度だけ地獄から抜け出せるチャンスをお与えになったのである。さらに、「藪の中」では、まさに「藪の中」での出来事に対するそれぞれ「三人の供述」のくい違いの「謎解き」から、まさに事件の「真相」の解明になっているとともに、「トロッコ」では、まだ八歳の主人公「良平」という子供は、毎日、村はずれで「鉄道敷設(ふせつ)工事」を、とくにトロッコに颯爽(さっそう)と乗ったり押したりしている土工(どこう)の姿を見ているうちに、次第に、土工になりたいとか、一度でも土工と一緒にトロッコへ乗ってみたいとか、或いは、たとえ乗れなくても、押すことさえ出来たらと思うようになっていたのである。やがて、運良く若い二人の土工にトロッコに乗せてもらうことになるが、そこから、まさに物語(ドラマ)が展開していく内容であり、興味や関心がありましたら、ぜひとも訪ねて見てください。
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