遺言一つなかった。この一週間、竜彦はずっとこの機会を待ち続けていたのだ。凪子一人残して、優しい言葉一つかけずに‥‥。「何故なの？　わたしの名をもう一度呼んで！　愛しているといって！　愛しているから死んだのだ、愛しているから先に行って待っている。そう言ってほしい」凪子は叫びつづける。彼は無言。彼はもういない。頬に触れ、その冷たさに震え上がると、凪子の膝から竜介が滑り落ちた。新婚旅行の最中に体調を崩し、入院して手術し、両足を切断され、そして、彼はもういない！！　わたしも行かなければ、凪子は病室の窓によじ登る。新婚２週間。想い残すことはない。やがて、凪子は、誤診した犯人と目される医師を追って報復作戦にでます。五百円の靴を愛用している病院の御曹司との、愛憎劇をお楽しみください。
人間の深奥にふれてくる、哀しみを、あなたに！！