さて、今回の谷崎潤一郎の有名な『鍵』の「前半部」というのは、「谷崎潤一郎の世界」の「鍵」の「第一部」と「第二部」とを統合したものではあるが、その内容は、次のようなものである。――まず、「第一部」(四人の思惑)であるが、この作品の主要な「登場人物」は、「四人」であり、一人は、主人公の夫(大学教授)であり、一人は、その妻(郁子いくこ)であり、また、一人は、娘(敏子)であり、そして、もう一人は、娘の結婚相手とみなされる「木村」という人物になるわけである。そして、よく「三人」(母親と娘と木村)とで「映画」を一緒に観に出かけたり、また、夕食の時に、娘(敏子)を除いた「三人」(夫と妻と木村)とで酒(ブランデー)を飲むようになるが、ある日、妻(郁子)は、酒(ブランデー)に酔い過ぎて、風呂場で倒れるという「事件」を起こすことになるが、その後も同じような「パターン」を幾度も繰り返すという内容である。
次に、「第二部」(敏子の別居)であるが、まず、敏子の別居以来、木村は遊びに来る表向きの口実がなくなった訳だが、相変らず二三日置きに来る。そして、夫(大学教授)は、ポラロイドやカメラ(ツワイス・イコン)などを使って妻(郁子)の「全裸写真」を夜な夜な撮ったりしているが、一方、別居した敏子と母親(郁子)それに木村とは、今までのように夫の「家」ではなく、むしろ別居した娘(敏子)の部屋で、最初は「三人」で、やがて「ブランデー」を飲み始めると、娘(敏子)は、いつしかその場からは消えて、妻(郁子)と木村の「二人」だけで「ブランデー」を飲み交わすようになり、そして、酒に酔って倒れるということを「三度」繰り返すが、その三度目に、妻(郁子)と木村とは終に「最後の一線を越えてしまう」という展開になる内容であり、興味や関心がありましたら、ぜひとも訪ねて見てください。