「古事記の上巻を、イニシヘコトバの假字書にかきたびてよ」と、初学のともがらにも読んでもらふことを念頭に、国学者の横井千秋が殊にもとめて本居宣長が著した書籍です。現代の私たちであれば、この類の企画モノは迷はず「現代語訳」にして商品に致しますが、もちろん宣長はそのやうな鼻白むことはしませんでした。この本には古事記をむねとした所謂「日本神話」が、序文に曰く「ゆめ一文字もみだりにはよむべからず」と、文字通り神代の正語をあくまで検証した上で、原典に則って記されてゐます(また曰く「既く阿礼が誦うかべし時に脫せるか、はた記成て後に、写す者の脫せるか」したと思はれるくだりについては、主に日本書紀からの引用でこれを補完してゐます。この際宣長は、一見して古事記を自らが補ったパタグラフがわかるやうに「又は」と文頭において、段落をあらためた体裁にしゐます)。すると読むのに難儀しさうな「むつかしい本」が出来あがるかといへば、さうはならないところが神代の正語の妙(たへ)なるところ、むしろ返って読みやすいものが出来あがったのでした。本書は曰く「自他の差別(けぢめ)やテニヲハがみだれた」中世以降の、私たちが「古典」と呼んでゐる書物とは全然異質の書物であり、水のやうにうれしく誰のこゝろにも沁む、私たちの母語を再生します。
------------------
この本の試し読みができる本をアップしました
↓
https://puboo.jp/book/131897
フルコトブミ=古事記全巻/注釈・本文(訓読)古事記伝
https://books.rakuten.co.jp/search?g=101&maker=マチカネの本&l-id=item-c-maker-book
神代のまさことの序 |
あめつちのはじめのくだり |
神代七世のくだり |
おのごろしまの段 |
みとのまぐはひのくだり |
大八嶋なりいでのくだり |
諸の神たちあれましの段 |
いざなみの命 御石がくりの段 |
かぐづちの神のころさえのくだり |
夜見の國のくだり |
御みそぎの段 |
三柱のうづの御子 御ことよさしのくだり |
須佐之男命 御やらはえの段 |
御うけひのくだり |
ひこ御子ひめ御子 御詔別の段 |
すさのをの命 御あらびの段 |
天の石屋戸のくだり |
須佐之男命たしなみの段 |
やまたをろちのくだり |
須賀の宮の段 |
八十木種まきおほしのくだり |
大國主神の御祖の段 |
いなばのしろ兎のくだり |
手間山のくだり |
根のかたす國の段 |
八千矛神 御つまどひの段 |
うきゆひのくだり |
大國主神の御末の神たちのくだり |
少名毘古那神の段 |
さきみたまくしみたまの段 |
大年神 羽山戸神の御子たちのくだり |
國むけ御はかりの段 |
天若日子のくだり |
大國主神 國さりのくだり |
大美和大物主神の祭のくだり |
御孫命 御あもりの段 |
日向宮御しづまりのくだり |
さるめの君のくだり |
猨田比古神あざかの段 |
大山津見神とこひの段 |
木花之さくやびめ御子うましの段 |
御さちかへのくだり |
わたつみの宮のくだり |
火照命まつろひの段 |
鵜の羽うぶ屋のくだり |
鵜葺草葺不合命の御子たちのくだり |
神代のまさごとのしりがき |
原書奥付 |