【あらすじ】
近ごろ実に、実におもしろい書を読んだ。柳田国男氏の著、遠野物語である。二度三度と読み返しても、まだ飽きることがない。
この書は、山深い幽僻地の、伝説や珍しい話、さらに怪談を、その土地の人から聞き集め、氏が自らの筆で活かし描いたものである。
私は敢えて「活かし描いたもの」と言う。そうでなければ、妖怪変化がこのように生き生きとした活躍を見せないであろう―
怪異を愛する鏡花が感心したのは、単に奇妙な事と妖しいものの描写だけではなく、土地の光景、風俗、草木の色などを、行間から知ることができる点であった。
稀代の作家が、独自の感性と視点で遠野物語の魅力を熱く語った随筆。