革鞄の怪(かばんのかい)‐泉鏡花 現代語訳集別冊45

革鞄の怪(かばんのかい)‐泉鏡花 現代語訳集別冊45

販売価格:60円 (税抜)
状態 完成
最終更新日 2016年04月11日
ページ数 PDF:19ページ
内容紹介

【あらすじ】

上野を出て、田端、赤羽―そして蕨を過ぎる頃から、向かい側の席に座った、一人の男の革鞄が、私の目にフト気になりはじめた。

もう十八九年も前のことだが、秋の招魂祭での奇妙な経験を思い出したからである。

私は男と革鞄をじっと見て、何か不思議な、妙な事がはじまりそうで、危なっかしい中にも、内心少なからぬ期待を持たせられた。

午前十一時半頃、汽車が高崎に着いた時、疎らに空いていた席が、ぎっしりになって、私とは、ちょうど正面、例の男と隣り合った、そこへ、艶やかな女が一人腰を掛けた。

濃い紫の紋付で、白襟、それに深紅の長襦袢。水の滴りそうに艶やかな、それでいてその貞淑を思わせる、初々しい上品な高島田に、鼈甲の櫛笄をきちんと堅く挿した姿は、これから嫁に行こうとする女である。

彼女が見送りの人々に挨拶をしようとして、席から立って、前へ出ると、ぐい、と袖を取られて引き戻されて、その場に駒下駄を履いた足が止まった。

革鞄の奴め、やはりやらかした。

何と、その口に、花嫁の紋付の袖が挟まっていたのである。

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